● 反日デモの背景(2) 宮崎正弘
共産主義がなくなってから、中国共産党が今やっていることは、ナショナリズムという非常に危険なものを持ち出してきて、政権の維持をやっている。このためには、常に自分達が正しくて、日本が降参しなくてはいけないというイメージを情報操作で作っている。それは人民日報も中国青年報もあらゆるテレビもみんなそうですけれど、そうやって情報操作をやってきた以上、途中で今までの情報操作と矛盾するようなニュースの配信はできないというシステムになっております。
文革世代は今回の反日デモを完全に冷笑しているんですね。また若い人が、何かの犠牲になるのではないかと、もう一回揺れ返しがあるのではないか、というような恐れを抱きながら、非常に距離を二歩も三歩もおいて見ていたというのが、特徴であったと思います。
二番目の特徴ですが、権力抗争が中軸にあって、交替したとはいえ、江沢民の「上海閥」と胡錦濤のいわば「共産主義青年団閥」との確執がまだ完全に終わっていない。
というよりも上海に関して言えば、胡錦濤に対する反発まだ非常に強く残っているというふうな印象がございます。
地図を御覧頂きたいのですが、胡錦濤派が今抑えているのは、内モンゴル、江蘇省、遼寧、河北、山西、河南、福建、貴州、四川、青海、広東、チベット、ウイグル、まぁこの辺の省長もしくは書記をとっている。
逆に胡が抑えていないのは、山東省や折江省など。
最初にデモが起きたところから見てまいりますと、全部胡錦濤が抑えている地域で起きています。それが最後に上海にくるわけですが、上海は今までにより以上に過激なことをやっていたというのは、ここがどうも説明がつかないのです。
江沢民派というのは、それまでにもどちらかというと、反日デモに冷笑的で、特に江沢民の右腕と呼ばれている曾慶紅は幹部会議の中で、反対をしたという話が伝わってきております。もうひとつは今商務大臣になりました、前の遼寧省長の薄キ来(薄一波の息子)も反日デモなんか、やるべきではないといってた。ということは共産党の中も一枚岩で反日デモをやったという形跡は今のところ、ないような気がします。
● 中国の新世代とバーチャルな反日
それは後でもういっぺん、詳しくいきさつを見て参りたいと思いますが、その前にもう一つ、デモに参加した人達について分析をしたいと思います。非常に若い人たち、愛国教育を受けた人たち、ですから、過去13年間に受けたとなると、12歳で13年間ということで、25歳以下の人たちが、圧倒的に日本が悪いということで頭の中が染まっているんですが、しかし、全体がそうかというと、おそらく90パーセントの若い人たちはこういうことに興味がないという傾向もはっきりしているんですね。
それは1979年に、中国が一人っ子政策を導入しました。ですから、今の年齢でいいますと、25歳以下、大学生以下は全員が「一人っ子」です。
一人っ子はご承知のように、兄弟げんかを知りませんし、克己心がない、ずーっと生れた時からテレビづけ、ハリウッド映画のことは非常によく知っておりますね。それから、何かわけのわからないやかましい音楽についても、よく知っているし、日本のアニメもよく知っている。そして、ここ数年に入ってきたのがインターネットと携帯電話です。
そうしますと、少なくとも都会にいる中国の若者は、非常に多様化した価値観を持っている。それから中華風の伝統というものに対して、距離感がある。どちらかというと、無国籍です。ここに、新しい種族がどんどん出てまいります。それはDINKS(ダブルインカム、ノーキッド)結婚はするけれども子供は作らないという夫婦が上海、北京その他の都会部には多い。この三年ほどで出てまいりましたのは、BOBO族といってブルジョアジーのBOとボヘミアンのBOを掛け合わせて、これ私がつけたんじゃありません。BOBO族といって、ちゃんと中国でそういう本も売っております。
国家とか、愛国とかそんなことはどうでもいい、自分が生きたいように生きればいいということを書いた小説『第三の路』も、大ベストセラーになっております。去年あたりから出てきたのは、これに加えて「傍老族」です。
自分が老いて行くことを傍観できるといいますか、人生に対する積極性が何もないと、これはちょっと日本人と似ているんですけれど、こういう種族が出てきた。ついで日本なみの「ニート」ですね。
今中国には3300の大学、正確に言いますと、1900の公立大学があります。それからプライベート及び、カレッジ、資格がもらえるカレッジを含めて3300の大学があります。
今年の6月には340万人の新卒が出ます。自分が行きたい職業に就ける人は今50パーセントしかいません。40パーセントはアルバイトかフリーターでしのぐけれども、10パーセントは全く職がない。それは日本でいうところのニートですね。ただ、こういう人たちもいきなり失業者の群れに投じているのではなくて、朝からインターネットカフェに出入りしたり、ジャズ喫茶に出入りしたり、というぐらいの所得はある。ですから、すねかじりが成り立つような若者が、今の中国の都会に増えているのです。
もうひとつは文学の頽廃現象です。
日本文学はほぼ全部翻訳されて出ています。村上春樹、吉本ばなな、山田詠美、あらゆる文学が出ておりますが、日本文豪というコーナーで紹介されているのが渡辺淳一先生で、去年の6月、上海にサイン会に行ったんですね、渡辺さんが。そうすると、600人が列を作っていたんです。日本より人気があるようです。
もう一つ、若者達の特質というのは、やはり自分の国を出たい。
一番行きたいのはアメリカなんですけれど、アメリカに行くことができなければ、日本でもいい、とにかく国を出たいというのが、中国の青年達の合言葉です。
そういう雰囲気の中で今の反日というのは何かなと考えますと、今の若い人たちは直接日本軍のことを知っているわけでもないし、いわば教科書という仮想空間の中で、知育されている通りのことを模範解答で、学校で書いているだけなんです。実態としての日本に対する憎しみというのは、殆ど無いと考えられると思います。







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